【分野:英国文化・英文学研究(19世紀)・英国史・旅行記】
『19世紀初頭ロンドン・イギリス漫遊探訪記』全8巻(復刻版)+別冊
Tour, Adventure and Rambles in England
A Collection of the Early 19th Century Sources
 

監修:松村昌家(大手前大学教授)
解説(別冊・日本語):中島俊郎(甲南大学教授)

2005年4月刊行予定 約3,910頁 図版(白黒)多数
本体予定価格:148,000円(税込予定価格:155,400円)
ISBN: 4-902454-07-6

 

「・・・・ペンとペンシルで描かれた19世紀初期のイギリス全域にわたる世相の大パノラマが、ここにくりひろげられている。」  松村昌家

●「鉄道以前」イギリスの都市、地方の社会と生活をエネルギッシュに活写し、人々の高い支持を得たジャンル=探訪記の知られざる傑作を集成
●クルックシャンク、ロウランドスン他、19世紀英国を代表する挿絵画家による挿画を多数収録
●19世紀初頭のイギリス社会事情、風俗習慣、言語、制度等の理解に、好個の資料


【監修者のことば】             松村昌家(大手前大学教授)
 
 リージェンシー摂政期(1811-20)を間にした19世紀最初のおよそ30年間、イギリスでは、ロンドンやイングランド全域にわたる漫遊が流行し、さまざまな探訪記が人気を呼んでいた。チャールズ・ディケンズの出現に至るまでの小説不振の一時期における、注目すべき現象であった。
 これらの探訪記が人気を得たのは、あたかも江戸時代において十返舎一九の『東海道中膝栗毛』が好評をもって迎えられた事情と類似している。異なった地域の土地柄、人情、生活、風俗、習慣、言葉等々を擬似体験することができる楽しみがあったのだ。書き手は、当然その効果をねらって、珍奇・斬新な話題を盛り込んだ読み物を提供すべく、キャラクターの創造と物語の構築に力を注ぐようになるであろう。結果として、19世紀初頭から1820年代にかけてイギリスで刊行された諸種の<道中膝栗毛>は、この時代のロンドンとイギリスの社会と文化の全領域を網羅した、掛替えのないテクストとなり得るのである。本コレクションには、数ある作品のなかから、単に摂政期(リージェンシー)の文化史的テクストというだけでなく、後に続くヴィクトリア朝文化・文学研究の参考文献として利用できるものとして、4作品(全8巻)を精選して収めた。
 
 その筆頭は、Don Manuel Alvarez Espriella, Letters from England, 3 vols (1808)。ロバート・サウジー(Robert Southey)が、スペイン人旅行者を装って書いた書簡体のイギリス漫遊記である。19世紀初頭におけるイギリス社会の諸相と、日常生活に関する観察と記録の決定版だ。サウジーは1813年桂冠詩人となるが、この作品はむしろ散文作家としてのサウジーの面目躍如たるものを感じさせる。
 
 次は年代順に、The Tour of Doctor Syntax through London ( 3rd ed. 1820) だ。作者名は明記されていないが、William Combe(文)とThomas Rowlandson(画)のコンビであることは間違いない。彼らが、シンタックス博士の『ピクチャレスクを求めての旅』(1812)で成功を収めたあと、「慰めを求めて」の第二の旅(1820)の執筆に取りかかる前に書いたと思われる韻文の作品である。まさに抱腹絶倒のシンタックス博士のロンドン冒険記で、19葉から成るイラスト入りの稀覯本の復刻版である。

 第3番目は、Real Life in London by an Amateur (1821)。作者は『ロンドン活写』(Living Picture of London, 1818) や 『スラング』(1823)などの著作のあるジョナサン・バドコックだという説があるが、本当のところはまだ不明のままだ。作品の表題からみても、ピアス・イーガン(Pierce Egan) の『ロンドンの生活(Life in London)』を意識して書かれたものであることは、明らかである。その意味で模倣の作品ではあるが、同時に野心の作でもある。リージェンシー・ロンドンの全域と全階層の
多様な生活の実態、そしてあらゆる社会的・文化的現象のディテールを活写しているという点でこの作品は、名実ともに「リアル・ライフ・イン・ロンドン」なのである。
イーガンの『ロンドンの生活』では、Isaak RobertとGeorge Cruikshankの兄弟画家が挿絵を担当しているのに対し、こちらはWilliam Heath, Henry Thomas Alken, Richard Dighton, Thomas Rowlandsonその他といった多彩な顔ぶれで全23葉の挿絵が描かれている。多彩な分だけスタイルの統一性に欠ける面はあるにせよ、挿絵芸術に関心をもつ者にとってはそれがかえって面白く、イギリスにおける挿絵の歴史をたどる上で、一つの重要な足がかりを、ここに見出すことができるように思えるのである。
 
 そして最後は、Bernard Blackmantle (Charles Molloy Westmacot) のThe English Spy, 2 vols(1826)だ。風刺とユーモアたっぷりのイギリス全土にわたる探訪記の傑作である。
 作品はまず作者の母校であるイートン校の章で始まり、およそ120ページ余りにわたって、この名門パブリック・スクールの組織、制度、学生生活、伝統行事などに関する詳細な描写がくり広げられる。まさに比類のないイートン校物語を織りなしているのである。
 それからあとブラックマントル氏は、オックスフォード、ロンドン、ブライトン、ワイト島、ポーツマス、ブリストル、バースなどを訪ね歩きながら、各地での見聞を面白おかしく書き記しているのである。それぞれの地域に関する記述の興味もさることながら、口絵を入れると全73葉に及ぶR.クルックシャンクの挿絵(但しいくつかの例外がある)が実に効果的である。(すべて手彩画だが、ここでは一部を除いてモノクロで収録。)これら一頁大の挿絵とは別に、クルックシャンクはじめ、ロウランドスン、ギルレイ等の原画の木版イラスト36点が収められていて、それらはそれらなりに見る眼を楽
しませてくれる。まさにペンとペンシルで描かれた19世紀初期のイギリス全域にわたる世相の大パノラマが、ここにくりひろげられているのである。なかでも10編を超えるロンドン関係の記事は、そのスケールからいっても、情報量の豊かさ、そしてまた文化史的な興味の面からいっても、類書を圧するものがある。

 本コレクションは、1808年から26年までのおよそ20年間のタイム・スパンを視野に入れて構成されている。その間は小説に関していえば、確かに不作に近い状態がつづいたが、反面このような多彩なエネルギーに満ちた探訪記が数多くあらわれたということは、社会史的にも文学史的にも注目すべきことだ。それらは、鉄道以前の馬車の時代ならではの、色とりどりのイギリス各地・各階層の生活風物誌を織りなし、イギリスの国民性や社会事情、風俗習慣、諸々の制度、言語等に関して特異の知識の宝庫をなしているといえるからである。特に異文化圏からイギリスの歴史、文学、文化の研究に携わる者にとっては、一度は足を踏み入れてみる価値のある世界である。新しい可能性が開けてくるのを実感することができるであろう。

■収録文献
第1-3巻
R・サウジー著『ドン・マヌエル・アールヴァーレイス・エスプリエーラのロンドン通信』
Letters from England by Don Manuel Alvarez Espriella
Written by Robert Southey  London, 1808.
Vol.1 ( xvii, 365 pp.) ,Vol. 2 ( ix, 369 pp.), Vol. 3 ( vii, 365 pp ): 1127pp

第4巻
W.クーム著『シンタックス博士のロンドン探訪記』
The Tour of Dr. Syntax through London, or the Pleasures and Miseries of the Metropolis.
Written by William Combe. Illustation by Thomas Rowlandson. London, 1820, 3rd edition.
Vol. 4: ( iv. 319 pp)+ ill. 19 : 361pp

第5‐6巻
『ロンドンの実生活』
Real Life in London, or the rambles and adventures of Bob Tallyho, esq., and his cousin, the Hon. Tom. Daschall, through the metropolis: exhibiting a living picture of fashionable characters, manners, and amusements in high and low life / by an Amateur.
Illustration by William Heath, Henry Thomas Alken, Richard Dighton, Thomas Rowlandson, etc. London, 1821.
Vol. 5 (iii. X.[3] 656 pp.) Vol. 6: (i. x. [3] 668 pp.)+ill. 32:1418pp

第7巻‐8巻
C. ウェストマコット著『イングリッシュ・スパイ:バーナード・ブラックマントル氏の英国探訪記』
The English Spy: an original work, characteristic, satirical, and humorous.
Comprising scenes and sketches in every rank of society, being portraits of the illustrious, eminent, eccentric, and notorious/ drawn from the life by Bernard Blackmantle. Written by Charles Molloy Westmacot. Illustrations by Robert Cruikshank. London, 1826.
Vol. 7 : ( xxiii, 417 pp.) Vol. 8 : ( xv, 399 pp.)+ ill.73:1000pp

Eureka Press
新・近刊洋書案内
Edition Synapse
新・近刊洋書案内
シリーズ出版物案内
日本・アジア学
英国・米国・アイルランド研究
芸術
女性学
お問い合わせ
edsynapse[@]nifty.com
(メール送信の際は[@]を@(半角)に変更ください。)