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分野:ヴィクトリア朝研究、英国19世紀美学・芸術学、工芸・デザイン、生活科学

ヴィクトリア朝の室内装飾と世紀末審美改革運動
− 同時代文献集 全6巻 + 別冊解説

Aesthetic Movement in Victorian Life
編集・解説:福島大学行政政策学類教授 辻みどり

●2005年9月刊行予定 
●約2,500頁 (図版多数)
●ISBN 4-86166-019-X
●予定本体価格 \138,000

◇19世紀末英国の中流家庭でブームとなった、インテリアやライフスタイル向上のための啓蒙書9点を多数の図版とともに復刻集成。
◇ヴィクトリア朝文学の背景研究、デザイン、居住学、ジェンダーや消費・生活文化史研究など幅広く活用可能。
◇ 英国の図書館でも体系的収集がされていない稀覯文献集。

刊行によせて ------------- 福島大学行政政策学類教授 辻みどり

1870年代以降英国では、室内装飾の啓蒙書が数多く出版された。室内装飾といって侮ってはいけない。発行年を追いながらそれぞれの内容を吟味することによって、読者と想定されたミドルクラス層の生活文化の変遷が浮かび上がる一方、「審美啓蒙家」を自認する著者たちが、一般大衆の「審美改革」を通して国家のprogressに貢献しようとした使命感といった、ヴィクトリア朝社会の諸相を映す鏡として活用することができるからである。
当時の主な読者は、性別役割分業により「家庭の天使」となることを期待された郊外住宅の専業主婦たちであった。啓蒙書の内容を通時的に比較すると、貴族たちの「文化資本」を反映した美の原理や良い趣味の原則といった抽象的な解説から、次第にミドルクラスの身の丈にあった新しいライフスタイルを提案して、予算に留意しながら部屋の目的別に家具・壁紙・装飾品等の選択とコーディネートの方法を解説する、実践的マニュアルへと変化していく様子が伺われる。
「審美啓蒙家」たちが推奨する家具・壁紙・装飾品等に注目すれば、よき趣味の規範となるデザインを知ることになり、ヴィクトリア朝小説の登場人物について、当時の読者同様に理解する手がかりを得ることができる。ミドルクラスを核として消費社会が拡張する中で、室内装飾は誇示的消費による差別化の手段として用いられるようになり、啓蒙書の内容はモノが集積した室内空間を解読する記号のコード表として機能するからである。啓蒙書の中には家具製造業者の名前と価格が添えられたカタログ的なものも登場する。
差別化のための具体的アイディアの中で、日本の扇子や雑貨が紹介され、日本人村(1885)やサヴォイオペラ『ミカド』(1885)の人気と相乗して、通俗的「ジャポニズム」の爆発的ブームを引き起こす要因を提供した。「アン女王様式」とともに「エステティック」或いは「アーティスティック」ブームの核をなし、その席巻ぶりが社会現象として雑誌『パンチ』で頻繁に風刺されるに至った、通俗的「ジャポニズム」ブームの実態を、啓蒙書の記述から辿ることができる。
 こうしてみると、英文学の文化背景のみならず居住学、デザイン史や、ジェンダースタディーズ、消費社会論を切り口としたヴィクトリア朝ミドルクラスの生活文化研究の史料としての、室内装飾の啓蒙書の価値は明示的だが、ごく最近まで大衆向け出版物として捨て置かれてきたことから、英国の図書館でも体系的な収集が行き届いておらず、資料収集そのものに大変な労力を要するという難点があった。今回の文献集は、1870年代から1900年の間に英国で出版された啓蒙書を網羅したうえ、文献末の広告に至るまで復刻し、英国でもアクセスが困難な文献を収録している点が貴重であり魅力的である。                                        ・・・裏面へ続く。
収録文献

Vol. 1:
Introduction by Midori Tsuji

Mrs H.R. Haweis
The Art of Decoration (London, 1881), 407pp

Vol. 2:
H.J. Cooper
The Art of Furnishing on Rational and Aesthetic Principles
(London, 1876), 116pp, 32 plates

Mrs H.R. Haweis
Beautiful Houses: being a description of certain well-known artistic houses
(London, 1st ed. 1882), 283pp

[Anon]
Artistic Homes or How to Furnish with Taste (London, c. 1881), 120pp

Vol. 3:
R.W. Edis
Decoration and Furniture of Town Houses (London, 1881), 290pp

Vol. 4:
Lewis F. Day
Everyday Art, Short Essays on the Arts Not-Fine (London, 1882), 283pp

Mrs J.E. Panton
From Kitchen to Garret (London, 1889), 248pp

Vol. 5:
Lucy Crane
Art and the Formation of Taste (London, 1882), 292pp, ill.

Vol. 6:
Mrs J.E. Panton
A Gentlewoman's Home, the Whole Art of Building, and Beautifying the Home
(London, 1896), 449pp, ill.

+別冊(日本語解説)

◎関連書ご案内◎

C. ドレッサー(他)著『ヴィクトリア朝 産業デザイン・技術教育百科』 全4巻
The Technical Educator: An Encyclopaedia of Technical Education

●約1700頁 ●底本:Cassell, Peter & Galpin, 1870-73
●本体セット価:\98,000- ●ISBN 4-901481-71-1

工業デザインや技術教育の必要性が認識さ始めた1870年代に、ドレッサーらが中心となり編集・執筆された百科事典です。ドレッサーはデザインの基本と色彩理論の項目を執筆、その他にもIllustrated London Newsの副編集長John Timbs、写真家のパイオニアの一人 Phillip Delamotte、Royal Academy の教授 A. H. Church、Royal College of Science の教授 Sir Robert Ballなど多彩な執筆陣が、工業だけでなく建築、農業、土木など幅広い産業に応用すべき、デザインや技術をカラーを含む多数の図版とともに解説したレファレンスです。