| ●ロンドン万博直後に、観光客や一般向けに編集されたロンドン百科。●ロンドンおよびその近郊に関するヴィクトリア期の最新情報をアルファベット順に収録。
 ●900頁を超える大著を、200点を超える図版、地図とともに復刻。使いやすい3巻に分冊。
 ●病院、精神病院、監獄、公衆浴場、公園、水族館、学校、駅、教会などの施設の建築図面、ロンドンの天気や物価、保険料、税金などの統計等々、ヴィクトリア期の社会、文化研究そしてディケンズなど英文学研究のためのデータ集、視覚資料として最適。
 ●国内図書館所蔵は極めて稀。
 主な項目:Almshouses
 Architecture of London, ancient and modern
 Architects: the great men, Jones, Wren, and Chambers
 Arts, Manufactures, and Trades
 Assurances
 Asylums
 Banks- Bank of England
 Botanical Features and Landscapes of the Neighbourhood 
                        of London
 Breweries
 Canals
 Cathedrals and Churches
 Cemeteries
 Charitable Institutions
 Climate of London
 Club-Houses
 Colleges
 Corporations
 Customs Duties
 Docks, Commercial and Royal
 East India House and Institution
 Educations
 Electric Telegraphs
 Engineering Workshops
 Exchanges: Royal Exchange, Coal Exchanges, Corn Exchange
 Galleries of Art
 Gardens and Conservatories
 Geology
 Halls
 Horticulture
 Hospitals
 Inns of Court
 Institutions
 Learned Society
 Legislation and Government
 Libraries
 Lunatic Asylums
 Markets
 Medieval Antiquities and Tudor Art
 Mercantile Marine
 Military Appointments
 Mint and Monetary Systems
 Model Lodgings
 Municipal Law
 Music
 Museums
 Natural History
 Observatories
 Palaces
 Panoramas
 Parks
 Patents Offices
 Physical Geography of the Basin of the Thames
 Pleasure Grounds
 Police
 Port of London
 Postal Arrangements
 Prisons
 Public Schools
 Public and Private Buildings
 Railway Station
 Sewers
 Spirit of the Public Journals
 Squares
 Statuary
 Steam Navigation
 Thames Tunnel
 Theatres
 Trips in search of Refinement and Taste
 Water Supply
 推薦文東京都立大学名誉教授 小池滋
  このロンドン事典は1854年に刊行されたものであった。この事実にまず注目していただきたい。それから、いまこの本を手にとって開こうとしていらっしゃる皆さんが、21世紀の日本に生きているのではなくて、1854年のイギリスに生きていて、初めてこの本を手にしているのだと、というように想像していただきたい。そうすれば、この本がどのような意図で企画・編集されたのか、どのような人に読んで貰おうと刊行されたかが、おのずとわかっていただけるだろう。タイム・マシンを150年ほど逆転してみて下さい。
 1851年にロンドンのハイド・パークで大博覧会―今日でいう「万国博」の第1号が開かれて大成功を収めた。英国の各地はもとより、国外からも多くのお客がロンドンに押しかけ、これをきっかけとしてpopular 
                        tourism(大衆観光)というものが一般に認知され確立したのであった。
 本書は明らかにそうした時代の気運が生んだ成果であった。ブームに乗って(仕事のためではなく)観光のためにロンドンにやって来る多くの内外の(学者やインテリではなく)一般人の便に供するためのハンドブックである。だから、高邁な哲学ではなく、すぐに役立つ実用知識だけを、アルファベット順の項目にして並べるだけでよかった。
 だが、読んでみると、こうした素っ気ない即物的な陳列が、後世のわたしたちには興味深い、ときにはユーモラスな感慨をもたらしてくれる。例えば 
                        "Bank of England" のすぐ次に "Baths and Washhouses" 
                        とあるのは、おもしろいではないか。Bathsといっても、いま日本で流行の観光温泉ではない。"for 
                        the Industrious Classes" と説明がついていることでもわかるように、公衆浴場・洗濯場のことで、当時は一般勤労者のほとんどは、自宅(間借りが多かった)に浴場や洗濯場など持てなかったから、これは絶対必要な公共施設だった。男と女に分かれているのは当然だが、それぞれに「一等」と「二等」があるのが、いかにもイギリスらしい。挿入されている詳しい図面によって内部がよくわかる。当時の小説やルポルタージュや現代の研究文献を読んだだけではしることのできない貴重な知識をわたしたちに与えてくれる。
 "Post Office" のすぐ次が "Prison" で、それが"(Debtor's)" 
                        と "(Criminal)" に分かれているのも、当時の社会の実態をよく教えてくれる。個人間の借金を返せないと訴えられて債務者監獄に入れられたことは、Dickensの小説を読んだことのある人なら知っている。この監獄は1870年代になくなったから、きわどいところでこの本が扱ってくれたわけだ。
 このように、研究のためばかりではく、楽しみを求めて本書を気の向くままに開いて読む人も、大きな満足を得ることができる。
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