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対象:西洋中世美術史・中世文学・写本研究・書誌学・キリスト教・図象学

復刻版John W. Bradley 編
西洋細密・彩飾画家事典 全3巻

A Dictionary of Miniaturists, Illuminators, Calligraphers,and Copyists,
With References to their Works and Notices of their Patrons From the Establishment of Christianity to the Eighteenth Century

1999年4月刊行
品切れ
ISBN: 4-931444-24-5

西洋中世期には細密画芸術が隆盛を極め、多くの名工・芸術家たちが活版印刷出現以前の写本で彩飾、肖像画、装飾文字・花文字などの腕を競いました。1887-9年に英国で出版された本書は、これらの細密画や写本制作に携わった画家や写字生の技巧と、カリグラフィや彩飾の手法などに関わる仕事についてをまとめた貴重なレファレンスです。John William Bradley(1830-1916)によってまとめられた本書は、この分野の美術・工芸家を初めて体系的に分類し、綿密な調査によってまとめられた西洋細密・彩飾画家に関する最大の情報源となっています。記事は人名のアルファベット順に編集され、伝記記事、人物の詳細を掲載しています。また、これらの写本芸術を支えたパトロンも合わせて収録し、中世の芸術と社会の関わりの研究にも価値の高い資料です。美術史、中世研究、写本研究のみならず、キリスト教・図像学研究にとっても価値の高い資料としてお勧めいたします。

● 西洋細密画・写本に関する他に類を見ないユニークな人名辞典
● 芸術・工芸家だけでなくパトロンも収録
● 底本である1887-9年版は、現在では大変入手が困難
● 人文・芸術系大学図書館、美術館には必携のレファレンス


推薦文
『西洋細密・彩飾画家事典』を推薦する
慶應義塾大学教授 高宮利行

 無知をさらけ出すようで恥ずかしいが、この事典の存在は今まで知らなかったし、使ったこともなかった。こんな便利そうな名前をもつ事典なのだから、どこかで参考文献として見たことがあっても不思議ではない。わたしはその日海外から届いた古書目録を見終わらないうちは寝つけないという奇癖があるのだが、ほぼ40年の古書歴で、本書を見た覚えがないし、注文した覚えもない。
 不思議な気持ちに捉らわれたわたしは、ロンドンの古書仲間にメールで問い合わせてみた。彼は本書の存在は知っていたが、過去25年の間に入手したことはなく、市場でお目にかかったこともないと連絡してきた。それならばと、本書の出版社バーナード・クォリッチ社に直接尋ねてみた。19世紀後半といえば、クォリッチは世界の古書界の帝王として知られていた。自社が扱う中世や近世の写本の制作・装飾に携わった人々を特定したいクォリッチが、参考資料用として用いたいがために、自ら出版したのであろう。現代のクォリッチ書店の参考書コーナーには、今でも3巻本があって、葦篇三絶の跡が著しいという。要するに繰り返し参照されてきたし、今でもマイナーな職人や装飾師を調べるときに有効だという。
 それで分かった。例えば、ジャン・フーケのような著名な15世紀の細密画師だったら、今や立派な研究書も出ている。しかし、マイナーな職人の場合には、本書でしか情報が得られない場合があるのだ。イギリスの『国民人名事典』に漏れた人物が、『アリバン人名辞典』に掲載されているのと同じわけだ。
 このことを知ったわたしは、さっそく本務校の図書館に本書の復刻版を推薦することにした、現代でも使える参照資料として、また19世紀末の学界のレベルの高さを示す出版物として。

推薦文
美術史家、
共立女子大学教授 木島俊介

本書の原題を正確に翻訳することは難しい。あえて行うならば、「細密画家、写本装飾家、筆耕(家)、そして写字(家)事典」ということになるであろうか。英語の「ミニアチュリスト」の語源となる「ミニウム」というラテン語は、本来、聖書のような特別な書物の書面を鉛からとられる絵具「鉛丹(ミニウム)」の朱色で飾ることを意味していたのであったが、16世紀のイギリスにおいて小型のメダル肖像画が流行し始めると、この「ミニウム」という言葉がラテン語で小さいことを意味する「ミノール」という言葉と混同されて、小さくて細密な絵画を指すこととなった。「ミニアチュリスト」といった場合、現代ではむしろ「細密肖像画家」を意味するのが普通である。また、「イルミネイター」という言葉も本来は聖書などのような神聖な書物を格別に「光輝あらしめる」ものとする人のことであって、これもラテン語の「イルミナーレ」つまり「光を投射する」という言葉からきている。書面を特に光輝く黄金、そして朱赤、青などで美しく輝かしく彩飾する人のことを意味した。さて、「カリグラファー(筆耕家)」と「コピイスト(写字家)」の区別も難しい。活版印刷が発明されるまでの書物はすべて手稿本であったわけだが、当然のことながら原書よりもその複製本の数が圧倒的に多いことになる。それらは厳密な意味では「コピー」されたものということとなる。 ブラッドリーはこうした事情を充分に認識したうえで、キリスト教成立の時代から18世紀までの特殊な画家、手稿家たち、つまり書物を文字による記録、読み物としてのみならず、きわめて趣味性の高い美術品、ときには宝物として、細やかに美しく輝かしく飾ることにたずさわった者達の事績を原題に表された四種の職能に分け、さらにそれらを三つの時代に区分して説明している。事典に編纂するには区分が必然ではあるが、そのことが重要なのではない。実はこれらの四種の職能は互いに有機的な関連性をもって成立しているのであって、例えば、ある一人の細密画家を同定するのに筆耕(家)の同定が前提となる場合もあれば、そのまた逆もあるのである。さらには同定問題にはしばしば、注文主と所蔵者が大いに関係している。編纂者はこのような事情を熟知したうえで、こうしたいわゆる作品のパトロンたちの名前も同列に揚げて充分に筆をさいているのである。 現代の事典類が専門化するあまり、このような多様な職能や機能の有機的関連性を見失いがちであるのとは異なり、19世紀末というグローバルな視点の賞揚された時代に編纂された本書は、専門的事典として書誌研究、美術史研究に寄与するのみならず、西洋史、西洋文化史としても興味深い内容を持つに至っている。